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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
笛
とんとろ、とんとろ、とんとろとん。
笛
樺太は中知床岬の東、渺々たるオホーツク海のただ中、見渡すかぎりは円い水平線と氷雲、
燻された反射光、
ああ、日の小さい小さい空。
笛だ。
あ、笛が鳴る。
嚠喨と、起って響くその音いろ。
何かしら薄ら寒いが、いい凪である。明るいようでもりやすい日射し、照ってもまた光り耀かぬ黒い波濤の連続、見れば見るほど大きな深いうねりである。
その中に笛の音いろが澄みつつある。
吹いているのである。誰が吹くのか、その笛の音は、ただ一色に響いている。
空と海との、この焦点。
ひょうひょうふりょう、りょうふりょう。
まさしくお能の囃子である。
私は私の船室の前に、その白い壁に凭れ気味に、籐の腕椅子によりかかっていた。
私の右にも左にも同じような籐の椅子が並んでいた。人々が腰かけていた。
帆綱の影、潮じみた欄干の明り、甲板の板の目、鐶のきしり、白い飛沫、浅葱いろの潮。
うねるとも見えぬ果しもないうねりの丘陵。
はろばろとした波濤の畳みである。
宏大な海、小いさなのは私たちだ。
笛の音は中甲板の巨大な檣の下、三本立った白茶に藍の開き耳の、これも大きな通風筒の向う蔭から響いて来る。