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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

その横文字の看板の、そのまた屋根の、町並の上の近くは濃く青く、はるばると末は冥んだ韃靼海である。またいくらか薄い空の青みである。縁は陰って白い寒い雲の流れである。

そうして、沖には高麗丸の船室の灯が、美々しく、ちらちらと、今や輝き出した。

チャラン、チャラン、チャラン。

何やら金属性の透った音もきこえて来る。

「お腹が空いたぞお、いい加減にしないかア。」

と、また、乗り出す。

「じきだよオ。待ちたまえ。」

「頭は済んだかあい。」

「済んだよ。これからお面だ。」

「洒落れるな、おい。」

「洒落れはしねえ。」

と、剃刀がピカリと上へ反れた。危険危険、後ろ斜めに凭れ気味の、その刈りたて頭を。

ピーと、按摩の笛。

おもしろいおもしろい、按摩も白の背広で、麦稈帽である。

背広といえば小樽で見た按摩も、これは霜ふりではあったがやはり背広でカラをはめ、薄汚れてねじれてはいたが、何か黒に赤みがかったネクタイを結んでいた。キト旅館でひとりで机に向っていた時のことである。縁側からにじり込んで、下座にズボンの膝を折目正しくかしこまったその紳士を見て、私はまた土地の新進歌人のひとりかと早合点をした。