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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

海暮れて鴨の声ほのかに白し    芭蕉

*

白い障子を閉めきって、何だか薄ら寒いなとなった。夏は夏でも夜分は急に冷えるのがここらの気候だと思われる。褞袍を浴衣の上に重ねる。それからぽつんとちゃぶ台の前に坐ると、傍の手あぶりには炭火がかっかと熾っている。それでも、ひしゃげた鉄瓶が、触れば周りの疣々がまだ温みかけたばかしである。

そこでお盆の上の蓋物のつまみを取って開けて見る。なんと貧弱なビスケットだ。なすった白の、薄紅の花模様を一つかじって、淋しいなとなる。

お、電灯は無論点いているのである。それもコードがダラリと垂れ過ぎた。立ってひと結びくくりあげると、白い陣笠形の上の埃が両手にくっつく。

ところで豪傑笑いの友人はまだ帰って見えない。

「あはは、どうです。今夜はひとつ探険にでも出かけますか。」

隣りから声をかけた。小樽からのちかづきの、あの俊敏な紳士の、麦酒会社の重役の、ラジオファンのF君である。さっきからこちらの悄気かたをすっかり観察していたものと見える。傍にはこれもその連れのもういい年輩のHさんが長者らしく正坐して、またこちらを眺めている。