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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

椴松の林があった。熊笹の柔かそうな微風の深い斜面の裾にはまた、紅の華魁草に似た花が見渡すかぎりのお花畑を作っていた。

「何の花だろう。」と私は訊いた。

「柳蘭です。」と運転手は、タイヤに空気を入れ入れ振り返った。

来る道でもよく目についた花だったなと、私は肯いた。あ、あの紅いのもそうだったのだ。

黄色い、安別で花叢を成したあの丈高い女郎花風のも咲き乱れていた。

下手はまた、風に楊が葉裏を飜していた。

その銀、銀、銀。

水面のまた閑かな投影、枝垂柳の深さ。

白い雲、やや潤んで晴れわたった空、大気。

私はまた立ちながら、ポケットから赤い一箇のトマトを取り出して、しゃぷしゃぷかじった。

おお、滴れる、滴れる、トマトの漿水が。

「ええ、おい、桃太郎の桃でも流れて来そうなところだな。」

*

道は椴松の原野から椴松の山林に入り、幾度かまた原野に下り、また山林をのぼってゆく。

そうして山々はますます深く、自動車は迂廻し、迂廻し、山腹をのぼってゆく。

椴松の梢は寒く、林は黒く、そうしてその間からちらと青い空を覗かせてはまた濃く黒く密叢した林となる。

「ここは何という峠だね。