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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

だが、あたりには家も見えなければ人影も見えないのだ。

天には日がちいさいちいさい。

F君が銭を投げた。

ところで、また、白日光耀の下で、形もない鰌の、日のこぼれの、藻屑の、ころころ田螺の、たまには跳ね蝦の立鬚まで掬おうとして、笊をかろく、足をあげ、手で鼻をつまみ、振りすて、サッとまた笊を、空へ、コラサッである。

色っぽい、色っぽい。

「やははい。」と顎を出す、眼で挑む、「旦那やア。」となる。

それ逃げ出せと、甲虫の突進だ。

サッと、娘子軍途を開く。そこで私も銀銭を目つぶし、チャリンと撥で受けると、片眼のそのお婆が、

「へい、ありがとう。」

「行ってらっしゃい。」「ごきげんよう。」「また、今晩ね。」チュウと鼠鳴きだ。

狐につままれたかな。

ああ、椴松、椴松。さるおがせ。

*

「あいつら何です。」

「白首でさあ。」とN老人。

「あ、家が見えて来た。」

「どれ、ほう、村だな、村だな。」

「や、お祭りらしいよ。」

それでわかった。あの娘子軍の一行、浮かれ浮かれて、村はずれを、人の気もない山へ山へと練り出した、そこで遭遇した私たちだったのだ。酔興だとも思えるが、流石に原生林の中の寂しい生活者の姿である。