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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
ああ、雨がふる。
私たちはビスケットを投げた。だが狐は徒に尻込みして容易に金網に近づこうとしなかった。
「じりじりしますね。何でああ疑い深いでしょう。」と医専の一人が舌うちした。
「そこがいわゆる狐疑逡巡というやつだろう。」
褐色の尾の薄い青狐もいた。十字狐や赤狐もいた。その中に尻尾の尖りの白い黒狐の仔だけがまだ人なつこく、はしっこく、金網に飛びついて来た。可憐なその赤い舌が庄亮の掌を嘗めた。
「あっはっはっ。こりゃいい。おもしれえ。」
「無邪気だね。子どものうちはみんなああだな。」
ああ、雨がふる。狐の目つきに、毛の光沢に。
こんと一声。
秋雨めかしい、燐のにおいの小雨である。
養狐場を出たところで、私はまた牛舎の白い狭霧を、厩舎や豚舎の小雨を見た。雫を含んだ鮮緑の広々とした牧草の平面を、また散在した収穫舎、堆肥舎、衝舎、農具舎、その急勾配の角屋根を。
またうち湿った闊葉樹、針葉樹の林を、森を、また花いろの遠い煙霞を。
ああ、目に透かすと、先ほどの羊の影絵は早やなかった。
旅愁がしきりに動いて来た。
私は狐に遣り残しのべとべとのビスケットをわが手に嘗めた。