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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

少年はただ笑った。

それから私たちもペチカの前へ引き帰すと、娘のナタアシャも蹤いて来た。馴鹿のような軽い身振りだ。

「君の名は何というの。」

「イワン。」

「そうか、イワン、いい名だね。」と私は微笑した。

いかにも露助らしい名だと思えた。イワンの馬鹿ということがある。だが、この少年なかなか敏捷い。

「君、ここにイワンと書いてくれないか。」

誰かがそのノートを突き出した、鉛筆といっしょに。少年は奪うように手に取ると、窓際へ寄って、何か走り書きしたと思うと、今度は急に擲きつけるような恰好をした。

「ナタアシャ、君もひとつ。」

ナタアシャはほっほと笑った。そうして頤を突き出すと、叱るような眼をした。それでも面白そうに鉛筆の心を嘗めた。金髪がふさふさと揺れた。

「小父さん。」とまたMがやると、

「ジャメジャメ。」で、手を振った。

「じゃあ、撮らしてくれないか。」

爺さん、いよいよ赤い顔をして、また首根っこを叩いた。そうしてイワンとナタアシャと自分とを指ざした。

「じゃあ、みんなでいいじゃないか。」

「ジャメジャメ。」で、また尻込みしてしまう。

「じゃあ、家を映そう。」と私たちが外へ出ると、今度は硝子窓を開けて、内からさも映してもらいたそうに赤いにこにこ面で差し覗くのだ。