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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
私は涙が流れかけた、双眼鏡の下からだ。
「や、日の丸だ、おい。」
島の最高部、柱が天を摩して一本、日章旗だ。日本だ、日本だ。
「膃肭獣は見えないかね。君。みんな騒いでるがね。」
「待ちたまえ、や、赤い家が見える。」
「見えてるよ、さっきから。監視人の小舎なんだろうが、膃肭獣がいねえ。」
「膃肭獣は向うっ側にいるそうです。」と誰やらが前から振り返った。
「なるほど、変だと思った。」
「いる、いる、ほら、あれがそうらしい。」
黒い点々々、
右の砂浜の尖端、
あ、ざんざら波、
一面の反射光。
銀、銀、銀、銀、
天気晴朗なれども浪高し。
ところで、白い帽子の白詰め襟の老ボーイ、食堂の入口に現れるなり、燦爛と、さて悲しげに笑ったが、左に銅鑼、右に撥、じゃん、じゃららん、らんらんらんらん。
「一杯やるか、麦酒でも。」
「祝杯、よかろう。」
――麦酒、正宗、サンドウィッチ、サイダァ、牛乳、餡パン、マッチ、新聞、――
あ、坊やの声だ。隆太郎、隆太郎。
第三光景
赤塗りの羽目板の家はたしかに監視人の小舎であった。
ほんの掌ほどの畠、刺身のつまほどの菜っ葉。
塩漬肉の貯蔵庫、
撲殺人の粗末な宿所、その外の砂地に散乱した白い獣骨、鬱金色の岩菊。