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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

」

頭のぬめっこくて円い、黄色い頬っぺたの、眼の柔和な、髭の目だつ、人魚のようなのが上半身を出すと、またすぽっと潜ってしまった。

「行けっ、スピード。」

私は、そうだ、全く胴ぶるいを禁じ得なかったのだ。

海豹島、幾万の膃肭獣と、海豹と、海驢。

想像だも及ばぬ未知の世界がもうすぐに私たちの眼前に展開されるのだ。

と、横合から、なだれが、波飛沫が滝のように落ちかかって来た。私たちは外套をひっかぶった。

それからどうにか伝馬を着けると、ひらひらと板子の上を駈けて渡った。それからのことである。

前にいった赤い木造の監守小舎の横から、島の上へとつけた道がある。登りかけたところで、

ぎゃお、わお、がお、うわァああ、わお、

ぎゃおお、うわうう、ぎゃお、わあ、わお。

囂々として、騒々として、漠々として、瞑々として、恢々として、何ともつかぬ無数の肉音声が、蒼い蒼い向うの麗光の空から吼えとどろいて来た。いや、東の空いっぱいに響き返して、まだ見えぬ岩壁の下から下から湧きあがって来た。耳も聾するばかりのその怒号、吼哮。

愕然として佇ち留ったは私ばかりではなかった。

と、蒼蠅だ、緑金の点々々が真向から目を撲ち、頬を撲ち、鼻を撲ち、口を撲ち、たちどころにまた紫の螺旋の柱となって襲いかかった。