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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

大手術を受けたのであった。その病後の療養に、私は小田原の御幸ヶ浜へ一と月ばかりほど転地していたことがあった。ああ、あの頃だったなと思うと、私の追憶には青い青い広重の海の色や朝夕の潮騒の音が響いて来る。何かにつけて涙ぐましい自分であったなと思う。

あかしやの花さく見れば水の上にはかなき夏の夢もやどりぬ

片恋のわれをあはれと鈴麦の花さく傍を通ひ来にけり

夕青き微光の中をあがりゆく足長蜂は足を垂らせり

玉赤き蝋マツチする草のなかすでに蛍の臭気むせべり

こうした所縁の深い新作が増補として、「第二桐の花」としてでも加えられねばならない恋々たる気持にもなる。何という情痴であろうと果敢なくもなった。

ああ、あの頃だ。私は若かった。木下杢太郎も吉井勇も長田秀雄も若かった。ゲエテの門番の孫で、伊上凡骨の弟子の猿づらの彫刻家独逸人のフリッツ・ル※(小書き片仮名ム、1-6-89)プも若かった。桐の花とカステラの時代だ。緑金暮春調の時代だ。紺と白との燕や骨牌の女王の手に持った黄色い草花、首の赤い蛍、ああ屋上庭園の青い薄明、紫の弧燈にまつわる雪のような白い蛾、小網町の鴻の巣で賞美した金粉酒のちらちら、植物園の茴香の花、大蒜の花、銅版画は司馬江漢の水道橋の新緑、その紅と金、小林清親の横浜何番館、そうして私たちの「パンの会」