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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

「実は、その、白秋君はね、仕事を持って来てるんで、非常にいそがしいんだ。で、一人で置かないと勉強して貰えないのでね。とにかく奉って、夕方の歌会の時に迎えに来てほしいんだがね。実いうと折角A君が種馬の交尾を見せるというのを断ったくらいなんだからね。」

早速にその社中の歌人たちを帰すと、庄亮自身も飛び出してしまった。

やれやれと私は思った。それからくるっくるっの子鴉の啼声になったのである。

私は浴衣の肩や膝や畳の上に巻煙草の灰ばかり落して、手は赤インキだらけになって、それで何一つ片づきそうにもない。

午も過ぎたが、連れも帰って見えない。電話はきらいだし、手はたたいてもきこえず、やっと廊下を通る草履の音を聴いて、そこで昼飯の支度を命じたが、待てども待てどもお膳は出ない。いったい、北海道の旅館は悠長だとはきいたが、これには驚いた。

上陸する匆々から一人でぽつんと膳に向うのは寂しいものだ。ビフテーキの堅いことがまた切れるはずのナイフさえ徹らないのだ。女中はつつましいが、想像していたような東北弁ではない。間や床の置物などを見まわしてもやっぱり東京だ。で、寂しいが旅情というほどのものは起らない。