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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
私は黒の背広の上に薄緑のレーンコートをつけ、白の運動帽をかぶった上から、浴室用の厚いタオルをかぶり、それも吹き飛ばされないために、その首根っこを、また一つの手薄なタオルで、後ろからキッと引き締めて、首で結んで、あまりを長く垂らした、まるで白い兜を冠った川中島の信玄といった風である。
こうして私は国境安別の砂浜に立ったのであった。
上って見ると、沖から見た通りの、それは荒涼たる寒村であった。
先ず目についたのは鑵詰工場らしい、ほとんど吹き曝しのバラックだ。大きい、犢ほどの樺色の樺太犬がのそりと、その前には出ていた。ざくりざくりと薄墨色の砂を踏むと、昆布や赤い大きな蟹の殻や流木の砕片や、何かの脊椎骨が雨にじっとりと濡れて、北海の漁村らしい臭気が鼻をついて来た。
とうとう国境まで来たのかと思うと、ひえびえと私は雨の湿りに顫えたが、また、子供のように其処らを駈け廻りたくもなった。
「や、車前草だ。素敵素敵。」
それは樺太事前草とでもいうのだろう。すばらしく大きな葉だ。それが踏めば実に柔らかな緑をしている。砂浜から一段上ると、その車前草に縁どられた径が続く。