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ごじゅうのとう
五重塔
幸田 露伴
「国会新聞」1891(明治24)年11月~1892(明治25)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,316 字 · 111 页
ものではなし、外見よりは身が大切、いくら襤褸でも仕方ない刺子絆纏も上に被ておいでなされ、と戸棚がたがた明けにかかるを、十兵衛不興げの眼でじっと見ながら、ああ構うてくれずともよい、出ては行かぬわ、風が吹いたとて騒ぐには及ばぬ、七蔵殿御苦労でござりましたが塔は大丈夫倒れませぬ、なんのこれほどの暴風雨で倒れたり折れたりするような脆いものではござりませねば、十兵衛が出かけてまいるにも及びませぬ、円道様にも為右衛門様にもそう云うて下され、大丈夫、大丈夫でござります、と泰然はらって身動きもせず答うれば、七蔵少し膨れ面して、まあともかくも我と一緒に来てくれ、来て見るがよい、あの塔のゆさゆさきちきちと動くさまを、ここにいて目に見ねばこそ威張って居らるれ、御開帳の幟のように頭を振って居るさまを見られたらなんぼ十兵衛殿寛濶な気性でも、お気の毒ながら魂魄がふわりふわりとならるるであろう、蔭で強いのが役にはたたぬ、さあさあ一所に来たり来たり、それまた吹くわ、ああ恐ろしい、なかなか止みそうにもない風の景色、円道様も為右衛門様も定めし肝を煎っておらるるじゃろ、さっさと頭巾なり絆纏なり冠るとも被るともして出かけさっしゃれ、とやり返す。