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ごじゅうのとう

五重塔

幸田 露伴

「国会新聞」1891(明治24)年11月~1892(明治25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,316 字 · 111 页

青空文庫

癖ある手をも法衣の袖に殊勝くさく隠蔽し居るに、源太も敬い謹んで承知の旨を頭下げつつ答えけるが、如才なきお吉はわが夫をかかる俗僧にまでよく評わせんとてか帰り際に、出したままにして行く茶菓子とともに幾干銭か包み込み、是非にというて取らせけるは、思えばけしからぬ布施のしようなり。円珍十兵衛が家にも詣りて同じことを演べ帰りけるが、さてその翌日となれば源太は鬚剃り月代して衣服をあらため、今日こそは上人のみずから我に御用仰せつけらるるなるべけれと勢い込んで、庫裏より通り、とある一ト間に待たされて坐を正しくし扣えける。

態こそ異れ十兵衛も心は同じ張りをもち、導かるるまま打ち通りて、人気のなきに寒さ湧く一室の中にただ一人兀然として、今や上人の招びたまうか、五重の塔の工事一切汝に任すと命令たまうか、もしまた我には命じたまわず源太に任すと定めたまいしを我にことわるため招ばれしか、そうにもあらば何とせん、浮むよしなき埋れ木のわが身の末に花咲かん頼みも永くなくなるべし、ただ願わくは上人のわが愚かしきを憐れみて我に命令たまわんことをと、九尺二枚の唐襖に金鳳銀凰翔り舞う