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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

「これですよ。ごらんなさい」

頸のところを掴んでブラ下げると、それはちょうど大きな虎の死骸のように見えた。

「でも、神谷さん。あいつはそれを脱いでから、いったいどうしたんでしょう。やっぱり、どっかに隠れているんじゃない? そして、夜になるのを待っているんじゃない?」

蘭子は居たたまれないように、ソワソワしていた。

縁の下のもっと奥の方の、そとから見えない隅っこに、あいつは息を殺してうずくまっているのかもしれない。それとも、天井裏の闇の中に、じっと機会のくるのを待っているのかもしれない。いや、ひょっとしたら、そこの押入れの中ではないのかしら、そこをあけると、蒲団を積み重ねた奥の方から、あいつの無気味な眼が、燐のように燃えて、じっとこちらを睨んでいるのじゃないかしら。

「神谷さん、お気の毒ですけど、すぐ近くに公衆電話がございますから、このことを警察へお知らせくださいませんか」

お母さんに言われるまでもなく、神谷もそれを考えていたところであった。彼はさっそく公衆電話へ飛んで行って、警視庁と大都劇場事務所とへ、事の次第を知らせた。

やがて、間もなく、捜査課の人たちがやってきて、蘭子の家の縁の下から天井裏に至るまで、厳重な捜索を行なったが、例の虎の皮と足跡とのほかには、なんの手掛りを発見することもできなかった。