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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

「いや、ところが、塀のそとへは一歩も出なくていいんです。その先方の家というのが、またひどく変っていましてね、ちょうどお誂え向きなんですよ。家のまわりには高いコンクリート塀をめぐらし、その上にビール瓶のかけらが針の山のように植えつけてあろうという実に厳重な構えで、主人は年がら年中一と間にとじこもったまま、一歩もそとへ出ないのです。その主人づきのまあ話し相手、小間使いといった役目なんですよ」

「まあ、妙なご主人ね。年寄りのかたなの?」

蘭子も、この奇妙な話につり込まれて、だんだん乗り気になっていた。

「ところが若いのです。蘭子さんと同い年ぐらいでしょう。いや、ご心配には及びません。その主人というのは娘さんですよ。しかも片輪者なんです。顔に何か不具な箇所があるとかで、いつも黒い覆面をかぶっていて、誰にも素顔を見せたことがないという、極端に内気なお嬢さんです。そんな生活をしているものだから、話し相手がほしいのですね。もっとも老人の執事かなんかが一緒にいるんだそうですが、老人ではお話し相手になりませんからね」

「お金持ちなんだね」

「そうですよ。ご存じかもしれませんが、高梨という高利貸の一人娘ですが、二、三年前に両親に死なれてしまって、今では一人ぼっちの可哀そうな片輪者なんです。