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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「蘭子、今おれがどんな気持でいるか、君にわかるかね。おれは恐ろしく愉快なんだぜ。とうとうとっつかまえたねえ。もうどんなことがあったって、放すもんじゃない。だが、ずいぶん苦労をさせたぜ、君は」
振袖姿の恩田は、そんなことを言いながら、両手の指で空気を掴む恰好をして、隅っこの蘭子の上へ、巨大なけだもののように、のしかかって行った。
「キャア……助けてえ……」
蘭子は顔じゅうを口にして、死にもの狂いの悲鳴をあげた。
「ワハハハハハ」
怪獣は相手が怖がれば怖がるほど、一そう歓喜に燃えて、なまぐさい哄笑をつづけるのだ。
長い爪の痩せた指が、今一寸で蘭子の肩に触れようとした。だが彼女はまだ気力を失ってはいなかった。
「ワア……」と、今にも殺されそうな悲鳴を発しながら、相手の手の下をスルリと抜けて、白いタイルの浴室へ、鞠のようにころがり込んで行った。
「ワハハハハハ、いよいよ袋の鼠だぜ。知っているかね。この風呂場には、窓というものがないんだよ。君はつまりおれの注文にはまってくれたというもんだ」
そして、野獣らしい黒い裸身が、四つん這いになって、ノソリノソリ、タイルの階段を降りていった。