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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「大きい花瓶かなんかじゃありませんか」
運送屋がそんなことを言って帰ったものだから、つい油断をして、心当たりはないけれど、会社関係の人からの贈り物かもしれんと、書生に手伝わせてひらいて見たのだが……
ひらいて見ると、まず眼を驚かせたのは、箱の表面一杯にひろがっている、おびただしい花束であった。それを見たとき、神谷青年はある予感にうちのめされて、心臓は早鐘をつくように騒ぎはじめたのだが、といって、見ないわけにはいかぬ。ソッと花束をかきのけて行くと、ああ、果たして、果たして……名探偵の予言はむごたらしくも的中したのだ……そこには、全裸体の江川蘭子の死骸が、まるで蝋人形のように美しく横たわっていたのである。
その白蝋のようなからだのうちに、ただ一か所美しくないところがあった。蘭子を殺したものは、美しくない部分であった。喉のところにパックリと口をあいた赤黒い傷痕。それは何か猛獣のするどい牙でもって喰いちぎられたように見えた。
ふと気がつくと、死骸の胸の上に、一封の手紙がのせてあった。神谷は無我夢中でその封を切ったが、そこには昨夕明智の宅へ投げこまれたものとそっくりの筆跡で、左のようないまわしい文句がしたためてあった。