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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
両側のナツメの植込みが、まっ黒な蔭を作って、そこに何かしらただならぬけはいが感じられたからだ。見まいとしても不思議な妖気が彼の眼をその方へ引きつけて行った。植込みのもっとも暗い蔭、そこの地上三尺ほどの闇に、ああ、忘れもしない、あの青く燃える二つの蛍火が、じっとこちらを見つめていたではないか。
神谷は、それを見た刹那、あとで考えると気恥かしくなるような、なんともえたいの知れぬ叫び声を立てながら、一目散に玄関の方へ逃げ帰ったのだが、逃げながら振り返ると、怪物の方でも驚いたらしく、黒い影が、植込みをザワザワいわせて、門の方へ、怪しい風のように飛び去って行くのが感じられた。
「神谷さん、どうしたのです」
叫び声を聞きつけて、明智と小林少年とが、玄関へ戻ってきた。
「やつがいたのですか」
神谷は、門外を指さして、「あちら、あちら」とかすれた声で告げ知らせた。
勇敢な二人は、それを聞くと、矢のように門のそとへ駈け出して行った。だが、しばらくすると、別段のこともなく帰ってきて、
「何もいませんよ。思い違いじゃありませんか」
と、疑わしげに神谷の青ざめた顔を見るのであった。