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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

明智の手腕を信じきっている文代さんではあったが、さすがに案じないではいられなかった。

夜の十時頃、出先の明智から電話があって、小林少年が電話口に出ると、「恩田は首尾よく捕えたから安心せよ。これから父親の方を捜索に出かける。少し遅くなるかもしれない」ということであった。電話が非常に遠くて、よく聞き取れないほど低い声であったが、小林少年は別に疑うこともなく、それを二階の文代さんのところへ取り次いだ。

ところが、ちょうどその電話のベルが鳴った時には、読者も知るように、当の明智小五郎は、人間豹になりすまして、すぐ事務所の前の暗い道を往ったり来たりしていたのだ。それはいうまでもなくにせ電話であった。だが、何者がなんのために、そんないたずらをしたのであろう。このいたずらの奥には、どのような恐ろしい意味が隠されていたのであろう。

それはともかく、また一時間ほどたったころ、玄関のベルがけたたましく鳴り響いた。この夜ふけにお客様があるわけはない。先生がお帰りに違いないと思うと、小林少年は飛ぶように玄関に駈けつけてドアをひらいた。

そこに立っていたのは、果たして明智探偵であった。