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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

恩田は作り声で答えた。愉快でたまらないという表情だ。

(小林じゃないとすると、君はいったいどなたです――)

「僕ですか。ご存知のものですよ……よくご存知のものですよ」

(どなたですか。誰かうちのものはいないでしょうか)

さすがの明智も電話の相手が人間豹とは気づかぬ様子である。

「ところが、どなたもいないのですよ」

(え、え、なんですって? この夜ふけに誰もいないって?)

「そうですよ。小林君は台所でね、女中さんと一緒にグッスリ寝込んでいて、いくら起こしても起きませんしね、奥さんは人形箱の中にはいってしまって、出てこないのですよ」

度胆を抜かれたように、明智の声がしばらく途絶えた。

「モシモシ、どうかなすったのですか。あなたは明智先生でしょうね」

恩田はドス黒い舌を出して、ペロペロと唇を舐めまわした。獣人得意の絶頂である。

(ハハハハハ……君は恩田君だね。誰かと思ったよ。恩田君なればちょうど幸いだ。君の方は仕事はうまくいっているのかね)

突如として明智の声が快活になった。

「偉い! さすがは明智先生だよ。びくともしないねえ。ところで、さっき君に捕えられた僕が、どうしてここにいるかわかるかね」