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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

君の家のシャーロックも一緒に乗せて行こう。是非あいつが必要なんだ」

明智が、出発しようとする車をとめて叫んだ。

「よし。お前、シャーロックを連れておいで」

恒川氏は一とことも反問しないで、明智の言うがままにした。この名探偵が必要だといえば、必要にきまっているのだ。間もなく恒川夫人手ずから一頭のシェパードを引き出して、車にのせた。名犬シャーロックは少しも騒がず、何かの予感に緊張の面持で、主人恒川警部の両膝のあいだにうずくまった。シャーロックは生れつき嗅覚がするどい上に、恒川氏の仕込みを受けて、その名にふさわしい探偵犬に仕上げられていた。これまでにも、警部を助けて手柄を立てたこと一再ではなかった。

「君は何か見込みをつけているのかい。シャーロックなど連れ出して」

車が走り出すと、恒川氏がやっとそれを尋ねた。

「ウン、この犬が役に立つか立たないか、それが僕の運命のわかれ道だ。もしシャーロックが不用だったら……ああ、僕はそれが恐ろしいのだよ」

明智は名状できない焦慮の色を浮かべて、不安に耐えぬもののようである。

「今も話す通り、電話ではあいつに大きな口をきいておいたけれど、僕は確実な信念があったわけではない。