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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
運転台の恒川氏が不安らしく呟いた。
「それは大丈夫だ。電話でウンとおどかしてあるからね。今にも警官がくるかと思って、やっこさん泡を喰って逃げ出したほどだ。もう一度帰る元気はないよ。それに、いま念のために調べてみたんだが、クレオソートの黒い糸がちっとも停滞していない。もしやつが引き返したとすれば、車があともどりするか、少なくとも一度停車しなければならないのだが、そういう様子が少しもないのだよ」
「先生、諦めたんだね……よし、それじゃ前進だ」
そして再び犬と車とは走り出した。
黒い糸はその辺から右折して、電車通りを避けながら、上野公園不忍池のそばを通って、ついに浅草公園裏通りに出た。それからまたグルッと一と廻りして、二天門への入口に達したが、そこまでくると、シャーロックはヒョイと立ち止まって、しばらく地面を嗅ぎまわっていたかと思うと、いきなり元きた方角へ引っ返しはじめた。
「おや、恩田の車はここで引っ返しているんだな。ちょっと止めてくれたまえ。なんだか、この辺が怪しいぞ」
車が止まると、明智はまた懐中電燈を手にして地上に降り立ち、その辺を調べはじめた。
「おい、見たまえ、ここに黒い水溜りができている。