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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
おやっと立ち止まって振り返ると、いざり乞食が呼び止めている。
「旦那、おとしもんだ。これ、これ」
草鞋の手で指し示す地上に、二つに折った封筒が落ちていた。
「僕が落としたっていうのかい」
明智はけげんらしく二、三歩立ち戻って、その封筒を拾い上げた。
「ああ、その旦那だ。いま落としたんだ」
乞食がくずれた顔でお追従笑いをしている。
封筒を門の天井の電燈にかざして見ると、表に「明智小五郎殿」とある。確かに明智のものに違いない。だが、彼はそんな封書などをポケットに入れてきた記憶はまったくないのだ。
「おい、恒川君、僕たちはいま公園の中で、あいつにすれ違ったのかもしれないぜ」
「えっ、あいつって、人間豹のことか」
「ウン、どうもそんな気がするんだ。ともかく、こんな明かりじゃだめだから、自動車まで帰ろう。そして一つこの封筒をよく調べてみよう」
明智はすぐ向こうの電車通りに待っている警察自動車へ急いだ。
明るいヘッド・ライトの前に、四人が顔をつき合わせて封書を調べた。封筒は薄いハトロン紙の安物だ。裏に差出人の名前もなく、封もひらいたままになっている。明智は急いで中身を取り出してみた。