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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
こんなものがはいってきたんじゃ、公園もさびれますねえ」
「僕は、こいつを見たことがありますよ。ほら大都劇場の例の騒ぎのときですよ。この絵とそっくりです。いや、こんなおとなしい顔じゃなかった。こいつがね、レビューの舞台のまん中に立って、見物席を睨みつけて、この牙をむき出して、ウォーッと吠えたときには、実にどうも、なんといっていいか、生きたそらはなかったですよ」
「へええ、あなたは、あれをごらんなすった? 私も話は聞いてますが、江川蘭子が舞台の上で血みどろにされたっていうじゃありませんか」
「そんな古いことよりも、おいら、たったゆうべこいつにお眼にかかったんだぞ」
「どこで? どこで?」
「お堂の裏の大銀杏ですよ。おいら、あの下に寝ていると、誰だか頭を踏んづけやがった。びっくりして飛び起きると、あの大銀杏を、まっ黒なものが、スルスルッと、猫みてえに登ってくじゃあねえか。ヤイッてどなりつけてやると、そいつが木の上から、おいらを睨みつけやがった」
「こんな顔だったか」
「そうよ。まっ青な眼がお星さまみてえに光りゃあがるのさ。おいら、あとも見ねえで駈け出しちゃったよ」
「おまわりさんに言えばいいじゃないか」