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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
テンカンなら心配したことはないだろう。しばらくほうっておけばなおるんだろう」
「でも、なんとか手当てがしてやりたいんで。わっしの身になっちゃ、ほうっておくわけにもいきませんからね」
男はちょっと憤慨して見せた。
「そうか、それじゃ、実費診療所へでも担ぎこむがいい。実費診療所知ってるだろう。本願寺の裏手にある」
おまわりさんはそれ以上取り合ってくれなかった。そして、それが男の思う壺であったのだ。彼は女をおぶったまま、走るようにして映画街を抜け、いずこともなく姿を消してしまった。
文代さんが麻酔の夢からさめたとき、彼女はどこともしれぬ赤茶けた畳の、薄ぎたない部屋にころがっていた。
「気がついたかね。明智の奥さん、とうとうおれは君を手に入れたぜ」
ハッピ姿のひげもじゃの男が、顔の上にのしかかるようにして、毒々しく呼びかけている。
「ハハハハハ、まだ頭がハッキリしないとみえるね。さア、もう眼をさますがいい」
男の一種異様の匂いを持った温かい息が、ムンムンと顔にかかってきた。
「まあ、ここはどこですの? そして、あなたはいったい……」
文代さんがギョッとして起き上がろうとあせりながら、詰問するように叫んだ。