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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
二た間きりの二階なのだが、開け放した襖のこちら側も向こう側も、まったく空っぽのように見えるのだ。
ひょっとしたら怪人物は外出したのかもしれない。だが二人連れのはずはない。少なくとも一人だけは、女の方だけは、ここに居残っているはずだ。いや、とじこめられているはずだ。
明智はだんだん気を許しながら、畳の上を這うようにして、奥の八畳へはいって行った。道具も何もない黴臭い部屋、赤茶けた畳、障子の向こうに狭い縁側があって、ガラス戸が閉まっている。
明智はその縁側まで行って、障子の蔭をしらべてみるつもりだった。そうすればあんなことは起こらなかったのだ。ところが、部屋の中ほどまで行ったとき、彼をギョッとさせた異様の物音が響いてきた。
何か大きな物体がどこかでうごめいている感じだ。決して鼠なんかではない。ふと気がつくと、右手の押入れの襖が、物音のたびごとに、かすかに揺れ動いていることがわかった。
押入れの中に何かがいる。むろん人間に違いない。だが、当の怪人物でないことは確かだ。もし彼なれば、明智の侵入を察しないはずはなく、敵に悟られるような物音を立てる気づかいはないからだ。