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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

「どうしたんですか」

驚いて声をかけると、老人がどこか遠くの方で笑い出した。

「ハハハハハ、どうもせんよ。お前さんに、しばらくそこで御休息を願おうと思ってね。まあ、ごゆっくりなさるがいい。ハハハハハ」

そして、彼の声はだんだん遠くへ聞こえなくなって行った。

ハッと気がついて、部屋の入口へ突進したが、もう遅かった。厚い扉がピッタリ閉まって、そとから閂をかけたのであろう、押せども引けども、ビクとも動かなかった。

神谷は迂闊千万にも、罠にかけられたのだ。老人は薄暗がりを幸いに、窓をあけると見せかけ、彼の油断している隙に、廊下に出て、そとから閂をかけてしまったのだ。

彼は幾度も、全身で扉にぶっつかってみたが、なんの効果もないことがわかったので、今度は手さぐりに、窓はないかと調べてみたが、まわりはすっかり板張りになっていて、窓らしいものは一つもなかった。三畳敷きほどのまったく採光設備のない物置きのような部屋だ。いや、ただの物置きにしては、あまりに頑丈すぎる。もしかしたら、これは動物を入れるための檻に類するものではないだろうか。どうもそうらしく思われる。ああ、彼はまるでけだもののように、檻の中へとじこめられてしまったのかしら。