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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「エ、曲馬団の中ですって?」
「しかも、僕は今、ふと恐ろしいことを考えたのです。ハハハハハ、なあに、僕は少し神経衰弱になっているのかもしれません。だが、ひょっとしたら、ああ恐ろしい……」
明智ともあろうものが、この恐怖、この戦慄は何事であろう。
「なんです。どうなすったのです」
神谷青年が心配して、探偵の顔をのぞきこむ。
「いや今は聞かないでください。お話するさえ恐ろしいのです。しかし、僕は急がなければならない。だが、間に合うかしら」
明智は腕時計を見た。幸い破損せず動きつづけていた。
「一時五分前だ。こうしてはいられない。神谷君、わけはあとで話します。僕と一緒に来てください」
言うなり、彼はもう梯子段を駈け降りていた。神谷青年もあとにつづく。表に出ると浅草公園へと急いで、そこの入口にある公衆電話へ、呼び出した先はむろんK署の捜査本部。折よく恒川警部が居合わせて電話口に出た。明智はそこで文代さんの行方について、「人間豹」の本拠について、それを攻撃する手段について、手短かに打ち合わせをすませると、公衆電話を飛び出し、大通りに駈けつけて、一台のタクシーを呼び止めた。