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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「いやだわ、あの人、さいぜんからあたしの顔ばかり見ているのよ。ほら、あの葉蔭から、大きな眼で、あたしの方をじっと見つめているのよ。気味がわるいわ」
なにげなくその方を見ると、なるほど、シュロの葉の隙間に、蛍火のように異様に光る眼が、猫が鼠を狙う感じで、射るように弘子に注がれている。
「あれ初めての人?」
「ええ、そうよ。あんな人見たことないわ」
「失敬なやつ」
神谷は聞こえよがしに舌打ちして、相手の眼を睨みつけたが、すると、先方でもそれに気づいて、鋭い視線を神谷に向けた。
「なにくそ、まけるもんか」
と彼は酔っていたので、睨みっくらでもする気になって、じっと眼をすえて、しばらく睨み合っていると、不思議なことには、相手の眼中の蛍火がだんだん強く輝きだし、しまいには眼の前一杯に、えたいのしれぬ妖光がひらめき渡って、クラクラと眼まいを感じないではいられなかった。そしてなんともいえぬ悪寒が頸筋をゾーッと這いまわった。
「あんなやつ、気にするのよそうよ。君も向こうを見ないでいる方がいい、あいつどうかしているんだよ。あたり前の人間じゃないよ」
「ええ、じゃあ、もう見ないわ」