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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

ここにも、どんな恐ろしいけだものがいないとも限らぬのだ。

そこまで考えた時、あのギョッとする想像が彼を思わず立ち上がらせた。ああ、あの老いぼれめは、ひょっとしたら、その猛獣をここへ追い込むつもりではないのかしら。まさかそんなばかばかしいことが、いや、ばかばかしいといえば、この屋敷そのものがすでにばかばかしいのだ。あんな煉金術師の部屋が東京の郊外にあることだって、弘子やおれを監禁することだって、みんなありそうもないことばかりだ。そのありそうもないことが、現にこうして起こっているのだから、この先どんな気違いめいた変事が突発するか、知れたものではない。

暗闇が果てしもない妄想を産んで、今にも気が狂いそうであった。神谷は彼自身が檻の中の猛獣ででもあるように、部屋の中を、あちこちと歩きはじめた。

そうして歩いているうちに、ふと板壁に隙間があることを発見した。それを見ると、たとえその向こうにどんな恐ろしい猛獣が牙をむいていようとも、覗いてみないではいられなかった。

彼は中腰になって、隙間に眼を当てた。

ああ、夢ではないのか。そこには、果たして猛獣が……一匹の大きな豹がうずくまっていたではないか。