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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
するとさすがは老怪物、逃げ腰になっているのをシャンと立て直して、将軍ひげを震わせながら、声のない笑いを笑った。そして、ゆっくりゆっくりズボンのポケットに手を入れると、一挺の小型ピストルを取り出して、警官たちの鼻の先につきつけるのであった。
その頃、場内は津波のような混乱におちいっていた。木戸口に殺到する群集のわめき声、将棋倒しの下敷きになって悲鳴を上げる老人、泣き叫ぶ女子供、その騒然たる物音の中に一ときわ高い怒号の声が、彼方此方に響きわたっていた。
「人間豹だ」
「人間豹があすこにいる」
「ああ、逃げ出した。人間豹は屋根の上へ逃げ出したぞ」
見上げると、天井に交錯した丸太棒の上を、さいぜんの笑い声のぬしが、一匹の黒猫のように、眼にも見えぬ早さで走っていた。或いは縦によじ登り、或いは斜めにすべり、或いは横に綱渡りをして、丸太棒から丸太棒へと、伝い伝って、彼はついに、テントの裂け目から屋根の上に出てしまった。
透き通って見える白い帆布の上を、動物とも人間とも見分けのつかぬ奇怪な黒影が、丸くなって、飛ぶがごとく跳ねるがごとく走って行く。
今や場内に居残った大群集は残らず「人間豹」