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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

という名称さえも、新聞の社会面に現われはじめた。

前章の、江川蘭子が、まったく見知らぬ男と車を共にし、握手までかわしたという椿事も、そういう仮面流行の際であったからこそ、起こり得たことであった。

「くだらないお面なんかがはやるもんだから、そういういたずらを思いつくやつが出てくるんだ。君、よっぽど注意しなくちゃだめだぜ。もしそいつが悪人だったら、握手ぐらいですみやしないんだから。これからは、充分僕だってことを確かめてから車に乗るんだぜ」

神谷は、もしや獣人恩田の仕業ではないかと、かすかな疑いを抱いたものだから、それとなく、くどいほど注意を与えた。

蘭子も、すっかり脅えてしまって、それからは充分気をつけてはいたのだけれど、まさか人間豹なんて怪物が、この世に存在しようとは思いもよらず、それに、相手の欺瞞手段が巧妙をきわめていたので、或る夜のこと、ついまたしてもにせものの車に乗り込んでしまった。

「ラン子、今夜は家へ帰る前に、ちょっと寄り道をしようね」

蘭子が神谷と信じていた、その仮面の男が、暗い車内で、風を引いたような声で言った。

「ええ、でも、どこへ寄るの?」