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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

こういう事のあったあとだからというので、鳶の者や力自慢の道具方など、選りすぐった七人の者が、寝ずの番を仰せつかったのだ。

彼らは楽屋口に近い、畳敷きの部屋に一とかたまりになって、徳利からじかの冷酒を呷りながら、無駄口を叩いていた。

「おいらあ、どうも、あいつがまだ、この小屋ん中のどっかの隅っこに、隠れているような気がしてしようがねえんだがね」

「よせやい。おどかしっこなしだぜ。あれほど探していなかったんだもの、今頃まで隠れているはずはないよ。ねえ君」

すると三番目の男が首をかしげながら、

「ウン、だが、どうとも言えないね。なにしろ芝居の舞台裏や奈落ときちゃ、ごみ溜めみてえなもんだからね。隠れようと思えば人間一人、どこへだって隠れられるからね」

また別の一人が、

「もし隠れているとすりゃ、奈落だぜ。ほら、あん時、みんなしてやつを抑えつけたと思ったら、もうどっかへいなくなっていたね。変じゃねえか。いくらすばやいったって、あんなに早く逃げ出せるわけがねえ。やつは、あん時、せり出しの穴へ飛び込んだのに違いないぜ。やっこさん、今ごろ、この縁の下あたりでモゾモゾしてるんじゃねえかな」