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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

「船に酔いつづけていたからよ、可哀想に――勿論『林檎のような頬ぺた』は、いつだってしていないけれど」

「――永く外国にいた人というのはあんなもんなんだろうかね……変だね何だか――挨拶も人なみにできないようでさ」

「母様があまり堂々挨拶なさるから面喰ったのよ」

佃が手や顔を洗って来、果物や紅茶がテーブルに出たとき、伸子は、

「みんないらっしゃい。お茶!」

と弟妹たちを呼んだ。三人一どに来た。伸子は、

「和一郎さん、保さん、つや子ちゃん」

と順ぐり佃に紹介した。佃は、おかっぱではにかんでいるつや子に、優しく笑って、

「いらっしゃい」

と両手を差し出した。

「さあ行ってだっこしておいただきなさい」

皆が笑いながら見るので、つや子は、ますます極りわるく、佃の方に行こうとはせず、

「お姉ちゃま」

と伸子にからみついた。幼いつや子が佃の膝に行くか行かないか、冗談のような真剣な注意で皆が見守っているのを感じ、彼女は、つや子が佃になついて欲しかった。

「どうしたの? つや子ちゃん、だっこして御覧なさい。――そーら、お姉ちゃまごと動き出したぞ……」

伸子は、小猿のようにからみついたつや子を膝にのせたまま、佃の方へいざり出した。