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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

「はい、はい」

出てゆく伸子を、立って待っていて、多計代は、

「どんな用事があるのか知らないけれど、少しはこっちも手伝うもんだよ」

と云った。

「人一人が殖えれば、台所だってそれだけいそがしいんだから、そうお客様になられちゃ困るよ」

独りであった時のように、単純に、

「いやな母様! ちっとも忙しくなんぞない癖に」

とは云えない。母は、伸子を奪った佃に向ってのむしゃくしゃ、彼に自分を奪わせた伸子に対する寂しさを、ぶちまけているのだ。伸子が、テーブルの上など片づけるのを、多計代は眺めながら、

「一体、毎日何をしているんだい、佃さんは」

などと云った。

「本当に大学へ行けるようになるのかい?」

「来週からですって……」

「――じゃあまあいいけれど――人に訊かれても、何処へも出ていません、じゃ困るからね、あの年で……お前からよくお礼を云うようにお云いよ――お父様、あのお忙しい中を、この間だってわざわざ津村さんの家までいらしったんだよ、そのために……」

佃は、大学へ通うようになった。津村博士の研究室へ客員のようにして。やがて彼の専門の講師にでもなるのであろうが、それで生活は立たない。