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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

永い明るい夏の日が何とゆるゆるたつことか。

ある午後、伸子は八畳と六畳との境の開け放した襖によりかかり、ウクレリーを弾いていた。

例によって、西日は、もう畳三分の一ぐらいのところまで、眩く躍りこんでいる。粗末な譜本を膝の前にひろげ、あぐらを組み、伸子は譜と首っぴきで、フラットの多い民謡を稽古していた。

Hao, hae, haae ……ハオ、ハエ、ハアエ……、ボロンボロンボロンと三重音のリフレインをつけるわけなのだが、伸子の指は、とても、譜本の插画に、頸から大花環をかけてウクレリーを弾いているハワイ青年のそれのようには動かない。一つぐらいきっと、かんどころがずった。或は押しがむらで、肝腎の音が鳴らない。伸子は、頭で拍子をとりつつ、一二三、一二三、何遍となくやりなおした。毎日口を利く対手もなく暮すと、伸子はそうやって、せめて楽器に合せてでも自分の声を出したいのであった。

ハオ、ハエ、ハアエ……

何と下手なことだろう。三味線のひける人は、きっとたちまち上達するに違いない。熱心にやりながら、伸子の頭はこのようなことを考える。そればかりか、彼女はいつの間にか、隣家の物音をことごとく聞いていた。