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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

三つの心が、近より近より、やっと一つ影像になりきれそうになると、ぶるぶる輪郭が震え始め、また、ぼーっと散って、三重にぼやけてしまう。

対談は愉快な諒解によってではなく、言葉の循環に倦怠して、打ち切られた形であった。

佃の老父は、初め通り金曜日の晩食に招かれることになった。

往きも伸子は快活でなかったが、帰途は一層気が重かった。総てのことが晴れやかでないという感じが、深く伸子の心を圧えつけた。佃、自分、佐々の両親とのいきさつでは、衝突しても和解しても結局何にもよくならない気のするのは、なぜであろうか。ふっ切れたところが、一つもない。善も悪も、のび切らず、伸子に解釈のつかぬ曖昧なものに覆われている。老父はまだ帰っていなかった。佃は平常着に着かえ、さも、のうのうしたように自分の机の前の椅子に体をなげ下した。彼は、体中で伸びをしながら、うしろの伸子に云った。

「やれやれ、これでやっとすんだ。――私が死んだ母親のことを云ったら、お父さんは泣いていらしったね、お母さんは泣かれなかったが……お父さんはたしかに涙をこぼしていられた」

彼はそれを、ゆっくり思い出して、みずから後味を楽しむように云った。