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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

佃は、不快な話が出るといつも現す二本の横皺を、深く額によせた。

「私にはわかりません――それは、初めっから幾度も云ってある通り、君は自由です。あくまで自由なんだから、どうでも、好きになすったらいいでしょう――私にそんなことはできません」

伸子は自分の考えを説明した。彼女は、別々に生活すると云っても、動坂へは行かないつもりであること、経済的には佃に厄介をかけないつもりなことを話した。

「本気で、めいめいが自分の心に正直な生活をしはじめたら、この、変に嘘だらけのような暮しかたの、とにかく一部分だけでも、さっぱりすると思うのです。そうお思いにならない? 私どもは、本当によくないごまかし暮しをしているのよ」

佃は頬桁でも打たれたような眼をして、伸子を見据えた。

「我々が、どんな罪を犯しています? すくなくとも私は、神にいつ呼び出されてもいい、潔白な心持で君を愛しているし、生活している」

「でも……私が嘘だらけの生活と云うのはね、こういう点なの。一つの例を云えば、私どもは……」

自分の云おうとすることにおびえたように、伸子は思わず躊躇した。が、直ぐ早口に続けた。