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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

それを、不自然で、また不必要なほど、私のため、私のため、と云って下さるからいけないんじゃあないかしら。生れつき通りになりましょうよ。ね、そうしたらきっとさっぱりしてよ。二人の間も晴れ晴れしてよ。あなたはあなたとして、十分生きる権利を、正面から主張なさればいいのよ」

佃の返事はきまっていた。

「どうにでもお考えなさい。私の本性はこれきりだ。――私の覚悟は、もう結婚する時からきまっている。その決心を、自分がいいと思った時に実行するだけです」

決心というのは、死ぬとか、すべてを放棄して田舎に引込む、とかいう意味なのであった。このような言葉も、伸子は、どこまで本気にすべきか判らず、黙りこむしかなかった。本当かと思うとこわかった。この心理的かみ合いは、どちらかが死ぬまで、では続くのか、――しかし、おどかされているのかと思うと、伸子は、にっこり笑って片足引き、お辞儀をし、

「そうお、ではどうぞ」

と云って見たいようであった。――

七月になった。

佃は、勤め先から、関西へ出張することになった。短い旅行のために入用なものが、ちっとも揃っていなかった。互の間が不穏な、底鳴りのしている有様ではあったが、そのため却って、みっともない旅行はさせにくい気がした。