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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

翌朝、東縁の雨戸をあけると、素子は、

「ほう! こんないい景色のところだったんですか」

と、驚きを新たにした。

「二度びっくりね、昨夜、実はどんなところへ来たことかと少し辟易していたんだけれど」

雷光と雨に洗われた後の清い闊やかな北国の空、遠く魅力ある連峰、左手に展望される丘陵の上の可愛い森、活々した美が伸子をも見惚れさせた。

「空気が何だか違うでしょう? ずいぶん爽やかで勁いようでしょう」

「F県にこんなところがあるとは思わなかった!」

「――私関西――京都ぐらいまでしか知らないけれど、あの辺の景色よりこっちの方がよっぽど好きよ。あなたは?」

「あっちは平凡ですよ――平凡な美しさだ」

祖母が出て来、しきりに、

「よく来て下すったない、田舎で何のおもてなしもできなくて恥かしいごんだ」

と繰り返した。伸子は、

「八十になってもまだああいう技巧は忘れないのね」

と素子に囁き、大笑いした。

黒っぽい紺地に緑や茶で古風な粗い格子縞のある膝掛が一枚、戸棚にあった。伸子はそれを庭の芝生に拡げた。二人はその上に腹這いにころがった。素子が膝掛の房の間から出ている草を抜き、自分の細いパイプの先にさし、吹矢のような遊びを発明した。