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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
伸子は睡眠不足で変にゾーゾーする体を外套に包み、珈琲に玉子を食べたきりで出かけた。出勤時刻で、地下電車のステイションには新聞と鞄を抱えた男女が群れている。伸子は丁度来合せた急行に乗り込んだ。ホテルからは二十分足らずで大学まで行ける予定であった。百十六丁目というところで降りた。プラットフォームの工合が、この前佃と降りた時と少し違っているのを訝りながら、改札口を抜け往来に出た。街頭を一瞥し、伸子はさてと途方に暮れた。街は百十六丁目に違いないのだが、それがブロウドウエイでないことだけは確実であった。ステイションの広場からC大学の建物が見えるどころか、街路の左右に並んでいるのは倉庫のようなものばかりであった。一緒に地下から吐き出された人間はさっさと冷淡にその角を曲って消えてしまい、古新聞が散らばった朝の穢い歩道を疎らにのろのろ歩いているのは、縞ズボンに黒上着鳥打帽子といういでたちの男か、働き着の労働者だ。
伸子は決心し一途に上街に向って歩き出した。学校は百二十丁目にあった。この通りを百二十丁目までさかのぼれば、右か左かにブロウドウエイを繋ぐ横通りがある筈だ。