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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

宝石商の店頭に飾られた何百弗、何千弗と正札つきのダイヤモンドが、贋物としか思われない場所柄であった。

安川は靴を一足買った。伸子はリボン一巻と、白レイステーブル掛と、可愛い家鴨の子の玩具を二つ買った。安川は伸子の子供らしい買物を見て、

「可笑しな人ね、どうするのそんなもの二つも」

と笑った。

「可愛いじゃないの、まるで可愛い恰好だわ、佃さんにも上げるの」

伸子は、ふわふわ手応えない紙包みを大切に抱え、傘をさし、びしょびしょ濡れた鋪道を戻った。

眠らなかった割に、伸子の心持は、はっきりしていた。永いあいだ悩んでいた問題が、ひとりでに来るところへ来た。そういう落着きがあった。それは決して楽な行手を示してはいない。自分に女性としての苦労が始まるだろう。佃に協力する熱誠さえあれば、伸子はそれを恐れる自分とは思わなかった。彼がよし、と云えば自分の決心はできている。伸子の胸には希望と一緒に、云い難い一筋の悲哀、不幸の予感があった。それは、親のことであった。彼女は両親を愛していたし、彼らが伸子の伴侶を想像すれば、凡そどんな青年を考えるか、見当はついていた。公平に云って、佃は彼らの空想の中に現われるだろうどの人物とも、縁が遠いのは明らかであった。