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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
滝つせは黒髪を乱し、肩をうち、白衣の肌を伝い流れ、弾き飛んで、濛々たる水煙となり、神秘なる乙女の姿を神々しくぼかしていた。
水煙の中に色をうしなった唇はかすかに動き、合掌せる手首は烈しく震えて、彼女は一心不乱に何事かを念じているのである。
新一は乙女心の烈しさにうちひしがれて、晩秋の冷気の中に立ちすくんでいた。長い長い間、身動きもせず、息さえ止まる思いで、その神々しいものを見守っていた。手に汗を握り、涙を流し、憑かれたように立ちつくしていた。
どれほどの時がたったのか、ふと夢がさめたようにわれにかえって見ると、すぐ目の前の林の中に、いつの間に着更えたのか、もんぺ姿の京子の現実の姿があった。
新一は木の枝をかき分けて、その傍へ近づいて行った。京子も物音に気づいて振り返った。
「マア、新一さん、とうとうあなたに見られてしまいましたのね」
京子はまだ青ざめた片頬に、ほのかな微笑を浮かべて、静かにいうのであった。
「毎朝、ここへ来るのですか」
「エエ」
「何を祈るためにです」
「お分りになりませんの」京子は幽かな憤りを見せて、やや烈しく聞き返した。
「分っているような、分っていないような」