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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
満山の紅葉の斜面を越えて、遙か目の下には温泉宿の瓦屋根、板葺屋根の一かたまりが小さく眺められ、その側を流れる渓流をさしはさんで、直ちに前方の山々が同じ紅葉の錦に覆われて重なり聳えていた。見晴し台と温泉村のほぼ中間、少し右手寄りの山の中腹に、古風ながっしりした建築の西洋館がただ一軒、紅葉の中からぬっと浮き上って見える。これが五十嵐博士一行のたてこもる某貴族の別荘である。
見晴し台は温泉客のために山の中腹を切り開いた百坪ほどの狭い平地で、中央にささやかな四阿が建っている。新一と京子とはその四阿の板の腰掛けに国民服と甲斐甲斐しい紺飛白のもんぺ姿を並べて、眼前の眺望を擅にしながら語り合っているのである。
会話が少し途切れた時、新一は夢見るような眼差でじっと青空を見つめていたが、そのまま視線を動かさないで、独語のように喋べりはじめた。
「京子さん、あなたには見えませんか、あのすばらしい爆撃機の大編隊が。空の果てを飛んでいるのです。機体は埃のように小さくしか見えません。しかしその数は蚊柱のように無数です。空一面を覆って、東へ東へと飛んでいるのです。爆音も蚊柱の唸りほどにしか聞えません。