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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

それ程高度が高いのです。僕はその幽かな爆音を聴きとることができます。京子さん、耳をすましてごらんなさい。ホラね、聞えるでしょう。幽かな幽かな音です。しかし、今に全世界を驚倒せしめる力強い唸り声です。今から数時間の後、あの蚊柱はニューヨーク、ワシントン、それからロンドンの空を黒雲のように覆い尽すのです。そして、その下の大都会は一瞬にして廃墟と化するのです。僕は毎日毎日、東へ東へと驀進する大編隊の無数の埃のような幻を見るのです。蚊柱のような唸りを聴くのです。ハハハハハハ、むろん幻ですよ。しかし、それは父の発明が完成すれば、実際この目で見、この耳で聴くことのできる幻です。京子さん、分りますか、この驚くべき意味が」

聴いている内に、京子の長い睫に覆われた美しい眼も、夢見るようにうるんで行った。彼女もまた天の一方にその幽かな蚊柱を見、唸り声を聴いていたのである。

「エエ、分りますわ」

僅か一言の答えであったが、彼女がどれほど新一の幻想に共鳴し感動していたかは、彼女の目がそれを語っていた。そこには隠そうとしても隠し切れぬ涙が水晶のように光っていた。

感動が静まるまで、二人は黙って空を見上げていた。