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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

昔からの家だから、古くて薄暗かった。しかし田舎へ来ては贅沢を言えない。いや、東京にいれば食うに困る身分だと思って、悉皆観念した。河原老人が筋向いに住んでいた。早速敬意を表しに行ったら、翌日老人も返礼に見えて、

「先生とは妙に御縁がありますな」

と言った。

「何うも不思議です。この上とも宜しく願います」

「お互いに、何うぞ」

「未だ慣れないので、無我夢中です」

「しかし西洋人にお教えになった経験がおありだそうですな? 先生は」

「先生は困りますな。具合が悪いです。先生と私は親と子ぐらい違いましょう」

と私は故障を申入れた。他の人は兎に角、この老人には気が引ける。

「それでは河原さん」

「はあ」

「失礼ながら、あなたはお幾つですか?」

「二十四です」

「成程。お若いですな」

「失礼ながら、先生は?」

「さあ。私は言わぬが花でしょう。ハッハヽヽ」

と河原さんは笑いに紛らした。

「当てゝ見ましょうか?」

「いつも年より余計に見られる方ですよ」

「それでは丁度ですか?」

「然う/\」

「成程」

と私はもう訊かないことにした。七十も丁度、六十も丁度だ。河原さんは五十の丁度の積りだったかも知れない。