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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

「河原さん」

と呼んで、河原さんは、

「何うも自分のことのようで変なものですな」

と笑った。

「学校は河原の鉢合せです」

「妙に揃いましたよ」

「この土地には河原姓が多いんでしょうか?」

「さあ」

「生徒にもありますよ」

「あります。しかしこゝで多いのは吉田姓ですよ。第一、この家が吉田です」

「成程」

「吉田組といって、鳴らしたものだそうです。今でも市長の吉田さん初め羽振りの好い人が多いです」

「それじゃこの吉田も昔は可なり幅を利かしたんでしょう?」

「いや、この辺一帯は仲間屋敷です。大したことはありますまい」

「足軽でしょうか?」

「然うですよ。精々五人扶持ですかな」

「先生も矢張りこゝの旧藩でいらっしゃいますか?」

「私は土地のものじゃありません」

「はゝあ」

「肥前大村藩です。昔をいえば、これでも由緒正しい侍ですよ」

「道理で」

「然う見えますか? ハッハヽヽ」

「侍らしいです」

「ハッハヽヽ」

「お郷里には河原姓が多いんですか?」

「余りありませんな」

「私は平民ですが、私の村には河原姓が多いです。紋も皆先生と同じ丸に剣片食です」

「それじゃ昔は同族だったに相違ありません。御縁がある筈ですよ」