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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
皆さんは河原さんをお手本にしなければなりません」
と私を褒めてくれた。
尋常一年生から私は級の模範だった。行儀の悪いものがあると、先生は必ず、
「河原さんをお手本になさい」
と言った。その折、皆の視線が私の顔に集注する。私は如何にも模範のようにキチンと坐っている。初めの中は得意だったが、追々窮屈になった。しかし家へ帰って母親に喜ばれるのが楽みだった。
「お母さん、僕は今日も先生に褒められました」
「宜かったね。何うして?」
「吉村孝一という子と鮫島三郎という子が教場で取っ組み合いを始めたんです」
「まあ/\。喧嘩?」
「えゝ、乱暴で困ります。教場でするんですもの」
「時間中?」
「えゝ。先生が皆仲を好くしなければいけないって仰有っている最中でした」
「まあ」
「僕が止めたんです」
「それから何うしたの?」
「先生は二人を叱りました。今度すれば罰則ですって。それから河原さんを御覧なさいって仰有いました。僕のようにおとなしくしなければいけないって」
「宜かったわね。御褒美を上げますよ」
と母親はお菓子を出してくれる。
皆のお手本だと言われると、自分もその気になる。何かの都合で少時先生に褒められないと物足りない。