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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
耶蘇から金が出るのかも知れない」
と父親は一時評判が悪くなったそうだ。金のないものが無暗に謙遜した時代だった。小学校長の息子が月謝一円の中等教育を受けるのは伝統を無視した不埒の業と考えられた。貧乏人が無産者と称して大きな顔をしている今日とは違う。
私は中学校へ入って初めて完全に解放された。小学校時代は、父親が校長をしている関係から、お父さんの学校へ通っているという頭があった。お母さんは、
「友一や、お前が一番にならないとお父さんの顔が立ちませんよ」
と、教えて、この信念を固めさせた。先生方も、
「流石に河原さんは能く出来る」
と言って褒めてくれた。これは無論校長さんの子だからという意味だった。責任が重い。子供心にも親の顔を立てたいという気があった。随って悪いことが出来ない。年々歳々模範生として儕輩から暗打を食わされるまで、善行を心掛けたのである。
然るに中学校は全く自分の学校だった。万事自分本意でやって行ける。遠く東京の明治学園へ遊べなかったのは残念だったが、父親の学校から解放されたのが嬉しかった。
「君、中学校は好いね」
と私は或朝登校の途中、安井君に感想を洩らした。